東京大学政策ビジョン研究センターナノテクノロジー研究部門坂田一郎教授研究室とナノサミット、
CNTを用いた「洗える導電性繊維」の開発に成功
繊維そのものが導電性を有し、衣服型バイタルセンサーに応用可能
ナノサミット株式会社(本社:埼玉県川口市、代表取締役:熊谷弘太郎)は、東京大学政策ビジョン研究センターナノテクノロジー研究部門坂田一郎教授研究室との共同研究において、カーボンナノチューブ(CNT)を糸に練り込んだ「洗える導電性繊維」の開発に成功しました。この繊維をシャツ等に応用することで、体表の電流変化を検知して、心拍などを把握する衣服型バイタルセンサーを作ることが可能となります。
CNTを練り込んだペレット(糸加工前)と、ペレットから生産した糸
開発の背景
センサー技術の進展、およびスマートフォンのような高性能なIT機器を常時携帯するという時代の変化によって、バイタルセンサーが脚光を浴びています。手首で脈拍を計測できる腕時計型のものが多数発売され、スポーツ時の身体的負荷の把握などに用いられています。
一方、単純な脈拍ではなく、心臓の動きを正確に把握可能な心電図を取得することができれば、バイタルセンサーの応用範囲が大きくひろがります。そのためには、心臓に近いところも含めた数か所の体表における電流変化を検知する必要があり、それを利用者に「計測の負担」を感じさせることなく実現できるのは、衣服型のバイタルセンサーのみです。
「洗える導電性繊維」の意義
すでにいくつか衣服型のバイタルセンサーが登場していますが、既存の製品は導電性を実現するために、銀ナノ粒子に代表される導電性物質を糸にコーティングしています。そのため、洗濯をするたびに導電性物質がはがれ落ち、性能が劣化するという問題がありました。
今回開発した導電性繊維は、糸の中にCNTを練り込んでおり、糸そのものが導電性をもっています。そのため、洗濯機で洗っても導電性を失うことはなく、扱いやすいものとなりました。耐久性では導電性物質塗布型のものと比べるまでもなく、結果としてコストダウンも実現します。
糸の繊維への折り込み方を工夫することで、単純な心拍ではなく、心電図を取得できるバイタルセンサーとなることが期待されるものです。
開発の概要
本研究開発は、CNTの凝集体を分散した上で、分子レベルでCNTとCNF(セルロースナノファイバー)とを結合する技術が根幹技術となっています。導電性をもつCNTをCNFで保持し、それを紡ぐことによって、導電性をもつ糸を作ることが可能となりました。その糸を編み上げることで、バイタルセンサーに応用できる導電性をもつ繊維となっています。
本研究の成果が社会に与えるインパクト
日常的に違和感なく着こなせる肌着型のバイタルセンサーが、心拍以上の心臓の動きを把握できるようになれば、体調の悪い従業員をいち早く検知したり、病気の兆候を発見したり、運動プログラムをリアルタイムにデザインすることなどが可能となります。とくに期待されるのは、「日常の健康時のバイタルデータ」を蓄積できることです。
一般的な心電計は、身体の数カ所にセンサーを貼付して計測します。そのため日常生活で継続して測ることは非常に難しい。今回開発した衣服型バイタルセンサーは、このような心理的・肉体的な負担を利用者にかけることなく、日常的に心臓の動きをモニターすることを実現する可能性をもつものです。これによって、医学や運動生理学が大きく発展することが期待できます。
本件に関するお問い合わせ先
ナノサミット株式会社
- 住所:〒141-0022 東京都品川区東五反田1-7-11-510
- メールアドレス:kanri@nanosummit.jp
東京大学政策ビジョン研究センター
- 住所:〒113-8654 東京都文京区本郷7-3-1
- 広報担当者名:佐藤 多歌子
- メールアドレス:t-sato@pari.u-tokyo.ac.jp