東京大学とナノサミット、キャパシタ用高性能電極材の開発に成功
窒素を添加した多孔性ナノカーボン素材で216F/gを達成。電気二重層キャパシタの大容量化にメド
ナノサミット株式会社(本社:埼玉県川口市、代表取締役:熊谷弘太郎)は、東京大学政策ビジョン研究センターとの共同研究において、電気二重層キャパシタ向けの革新的な電極素材とその安価な製造技術の確立に成功しました。
この素材は窒素を添加した多孔性ナノカーボン素材「3D-NDP-ACM」で、これを電極に用いることにより、従来品の4倍以上にあたる216F/gのエネルギー密度が得られました。これは、電気二重層キャパシタの欠点であった低容量問題を解決することが可能となる数字です。また、原材料にナノセルロースを利用することから、日本の森林等植物資源の工業原料への活用の道をひらき、それによる農林業の活性化にも寄与することが期待されます。
窒素を添加した3D-NDP-ACM(多孔質活性炭モノリスの三次元構造体。写真右端)
その製造工程。
- ポリアクリロニトリル(PAN)のモノリス(写真左端の白い物体)に、カーボンナノチューブ(CNT)を加える。この際、CNTをPANの中で均一に、かつ1本1本までに分散することが高性能化の鍵。
- 上のPAN・CNTモノリス複合三次元ナノ構造体を適切な温度下で炭化処理し、窒素を添加し、多孔質活性炭モノリスの三次元構造体を得る。
なお、本研究成果は英国の科学論文雑誌 Scientific Reports に採択され、掲載されています。
当該論文
Yanqing Wang, Bunshi Fugetsu, et al. 2017. Nitrogen-doped porous carbon monoliths from polyacrylonitrile (PAN) and carbon nanotubes as electrodes for supercapacitors. [online] 11 Jan. Available at: < http://www.nature.com/articles/srep40259>
研究成果が社会に与えるインパクト
鉛蓄電池やニッカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池など従来のバッテリはすべて、化学変化で蓄電するため充電に時間がかかる上、充放電の繰り返しによって劣化するという問題をもっています。スマートフォンでそれを実感されている方も多いことでしょう。
じつは、この寿命問題が再生可能エネルギーの利用拡大にも影を落としています。発電量が不安定な再生可能エネルギーには蓄電装置を組み合わせることが不可欠ですが、劣化し、定期的な買い換えを必要とするバッテリが運用コストを増大させるからです。
電気二重層キャパシタは、物理的に蓄電するため、充放電を繰り返しても劣化はほとんどしません。従来型バッテリとは比較にならないほど長寿命で、かつ、バケツに水をためるように、短時間で充電が完了するという特徴をもちます。ただひとつの欠点が、容量が小さいことでした。
今回の研究開発成果をキャパシタの電極に利用することで、数年のうちに電気二重層キャパシタの容量を鉛蓄電池なみにひきあげることができる見込みです。鉛蓄電池と同等の容量をもつことができれば、再生可能エネルギー分野への普及や、自動車・バイクなどへの利用が進むと考えられます。
なお、電気二重層キャパシタには、劣化がほとんどないことに加え、稀少資源を使わないこと、爆発などの危険性もないという長所もあります。さらなる研究開発によってエネルギー密度が向上すれば、スマートフォンのような小型電子機器の世界に変革をもたらす存在になることが予想されています。
また、今回の3D-NDP-ACMの素材にはセルロース系の素材も重要な役割を果たしており、その利用が進むことで、日本の農林業に新しいビジネスを生む可能性ももっている点も重要です。
技術解説
電気二重層キャパシタについて
電気二重層キャパシタはコンデンサの一種で、荷電粒子を電極にひきよせて保持することで蓄電します。蓄電に化学変化を利用しないため充放電を繰り返しても劣化がなく、充電も瞬時に終わることから、次世代のバッテリとして注目を集めています。
半面、容量を大きくできない(エネルギー密度が小さい)という欠点がありました。現状の電気二重層キャパシタのエネルギー密度は、鉛蓄電池のそれの約30分の1~約10分の1にすぎません。今回の研究成果により、約4分の1~同等までエネルギー密度を向上させることができる見通しです。
なお、容量の小さい現時点のキャパシタでも、自動車の回生エネルギーの蓄電装置などに利用されています。キャパシタなら瞬時にエネルギーを貯めることができ、かつ、充放電の繰り返しでも劣化がほとんどないからです。
キャパシタへのナノテクノロジーの利用について
キャパシタの容量を大きくするためには、以下の二つの面を革新する必要があります。
- 荷電粒子を保持する電極の単位質量あたりの表面積を大きくすること
- 電極の荷電粒子に対しての親和力を高めること
ナノテクノロジーをキャパシタに応用したのは、ナノレベルで多孔質な3次元構造体をつくることで、単位質量あたりの表面積を極めて大きくできるからです。電極の表面積を増やせば、それだけで容量がアップします。
続いて、今回の開発では、性能のいい電極を開発することも視野にいれ、試行錯誤を繰り返しました。最終形となる窒素を添加した3D-NDP-ACMは、極めて性能のいい電極として作用することを実験で確認しています。これを応用した試作品では、3,000回の充放電後でも216F/g(市販されているキャパシタ電極用の活性炭は50F/g)の安定した性能を示すものとなりました。
なお、本研究資金は、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センターによるものです。
東京大学政策ビジョン研究センターのリリースはこちらです。
http://pari.u-tokyo.ac.jp/publications/paper170111.html
同じくFacebookにも解説があります。