近年、増大の一途をたどるエネルギー消費。安い深夜電力や再生可能エネルギーを蓄積し、電力料金の高いピーク時の電力をまかなう電力ピークシフトの実現が望まれているが、その導入は進んでいない。このニーズに応えるだけの蓄電デバイスがないのだ。

蓄電デバイスとして期待されるキャパシタ

 電池研究は古くからある常に最先端の分野だ。新しい素材や技術を積極的に取り入れ、絶えず性能を向上させている。しかし、改良が進んだ最先端の二次電池も電力ピークシフトに活用するには、充電時間が長い、瞬発的パワーが低い、寿命が短いなど電気化学反応に依存する欠点が否めない。これに対して、化学反応を伴わずイオン移動を原理とするキャパシタは、充電時間が短い、出力密度が高い、性能劣化しにくいなどの特徴があり、次世代の蓄電デバイスとして期待されている。

ナノ構造電極でエネルギー密度の増大を目指す

エネルギー密度とは単位重量もしくは体積当たりの電力量であり、汎用的な二次電池である鉛電池に比較してキャパシタのそれは12分の1程度しかない。この課題に対して、ナノサミット株式会社は、東京大学、信州大学、太陽誘電株式会社と連携して「革新的技術創造促進事業(農林水産省)」の採択を受けて新型キャパシタの開発に取り組んでいる。ナノレベルで電極構造を制御し、電極の比表面積を高めることで静電容量の増大を図る。鍵となるのは、東京大学古月文志特任教授が開発したナノ素材の孤立分散技術だ。無秩序に凝集しやすいナノ素材を均一分散する技術がなければナノレベルの構造制御は実現できない。孤立分散された有機ナノ素材、無機ナノ素材をハイブリッド化し、高度に積層された比表面積の大きな電極によりエネルギー密度の高い大容量キャパシタを開発する。

コールドチェーンの省エネに活かす

現在の農林水産分野では、コールドチェーンの普及により、低温管理された生鮮食品の輸送が広範囲に行われている。膨大なエネルギーを使って、鮮度、美味しさ、安全性が維持されているこの現状に対し、大容量キャパシタの導入は、冷凍冷蔵の大幅な節電を可能するだろう。従来キャパシタの3倍程度のエネルギー密度を実現できれば、冷蔵冷凍機器の数時間の連続稼働が可能になりコールドチェーンに活用できる見込みだ。ナノ素材制御技術で高性能化する新型キャパシタに期待したい。(文/岡崎 敬)

専門誌「エンガレージ(EngGARAGE)」2015年12月号掲載